人類が、火星にアルバム1枚、遺せるとしたら? ①
グレン・グールドのゴルトベルク変奏曲(1981年版)。
スタッカートの効いたスキップ感が心地好い。
バッハによる原曲は、1つの主テーマを32変奏する、数学的ともいえる曲。
グールドは1音1音クリアに厳密に弾いているが、ジャズのような即興感に溢れている。
強弱のイントネーションが、巧みなのだろう。
スキップと同時に、一歩ずつ踏み締める強さ、カール・ルイスの走り幅跳びの高揚。ヒトが歩き走る喜びの全てが詰まっている。
ピアニストだが、自らに対する指揮棒を振っている。
グランドピアノというホールの、コンサートマスターとして。
グールドの右指と左指は、もはやグールドの意志を離れた、ピアノの精、妖精に。
1音1音の音の形は、スタッカートでクリアになっているが、その見た目にダマされては、グールドを、ただの傑作と過小評価してしまうだろう。
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